望月先生は甘くない ~年下ドクターの策略~
そこまで回想して私は小さく息を吐いた。目の前には雨でにじむ東京のネオン。
やはり雨が降っていて、じっとりと汗ばんでいる自分に気づく。
湿度のせいか、嫌な事を思い出したからか。自分でもわからない。
しかし、10か月前、あっさりと彼は大病院のお嬢様と結婚をした。
最後の日、いつも通り身体を重ねて、幸せな朝を迎えた日彼はサラリと言ったのだ。
「柚ちゃん、俺結婚するから」
あの朝、結婚をするのは私だと疑っていなかった自分はどれだけバカなのだろう。
その後続いた彼の言葉に、私は何も言えなかった。
「だから、ごめん。幸せになって」
謝罪をされ初めて、相手が自分ではないことを知った。
シャツをいつも通り来て、爽やかな笑みでスーツのジャケットを羽織ると振り返ることなく私の部屋から出て行った。