きみと真夜中をぬけて




「綺麗な字よねぇ」



懐かしむように言われる。

中身こそ見ていないものの、差出人の──杏未の繊細な字を誰よりも知っているのは母だ。



手紙が届くたび、私に報告だけをして丁寧に保管してくれていた。名前ばかりを見て来たせいもあり、文字の羅列になると余計に杏未の字は整っているのがよくわかるのだ。



「素敵ね」



そう呟き、母は私の肩にぽん、と手の乗せる。たったそれだけのことに、心臓が締め付けられた。




​───もし、私の母が母じゃなかったら。



何度そんなことを考えたことか。

綺や真夜中さんだけじゃない。なにより母が、弱かった私を包み込んでくれたから。自由を与え続けてくれたから。



だから私は、素敵な出会いを見つけられた。自分のことを空っぽだと思う時間が減った。


そしてその代わりに、私について、考える時間が増えた。


だから、今も。



「…おかあさん」

「うん?」

「友達って、2回目、あるかな」


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