きみと真夜中をぬけて








俺の母はよく喋る、とても世話焼きな人だった。父もまた温厚で優しい人だった。2つ下の妹は、父によく似て優しく大人しかった。



平和な家庭に生まれた。丁寧に育てられた。愛されていた。俺と妹に、平等に愛を注いでもらった。




一方、やえはそうではなかった。


両親を幼い頃に事故で失くしていて、親戚の家を転々としていた。俺が小学3年生の夏頃に向かいのマンションに越してきた。



母は、やえが帰ったあと、「なんだか繊細そうな子ね」と言っていた。それがどういう意味だったのかは、当時の俺には理解できないことだった。



センサイソウ。
西本やえは、センサイソウな女の子らしい。


だから優しくしてあげなければならない。




4年後にやえが鬱になることを予想していたかのような言葉だったな と、思い出して笑えた。




所詮他人事。俺だって、本当は出会った時からずっと、彼女のことをどうしようも無い羨望の瞳で見つめていたのかもしれない。




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