きみと真夜中をぬけて
小学3年生のときだ。
引っ越しのあいさつ回りでに来た時に顔と名前は知っていたけれど、初めて話したのはそれから1か月後の、夕暮れ時の公園でのことだった。
「なぁなぁ、学校いかないの」
小学校の裏にある、滑り台とブランコしかないこじんまりとした公園で彼女を見かけた。
小学生の下校の時間帯だった。
制服を着た中学生がその時間に 公園に居るのは少しばかりおかしなことで、好奇心旺盛だった俺は、深く考えることもせず 彼女に声をかけたのだった。
やえは、転校生だったこともあってか学校に上手く馴染めていないようで、「学校には行かない」と短く答えた。
スカートの上で握りしめた拳が震えていることに気づき、彼女がなにかに脅えていることはすぐに分かった。
「そっかぁ。そういう時、おれにもある。行きたくないならしょうがないよ。やえちゃん、センサイソウって、うちのお母さん言ってた」
「……それはきっと、悪口なんだよ」
「悪口って、悪い言葉だろ。俺には、そうは聞こえなかった」
「きみは、……綺くんは、幸せそうでいいな」