きみと真夜中をぬけて
やえの目にはいつだって光がなかった。
綺くんは幸せそうでいいな。
当時の俺は今よりずっと純粋でまっすぐに生きていたから、やえの言ったそれが皮肉だなんて少しも疑わなかった。
「やえちゃんは、幸せじゃないの?」
だからこんなにも簡単に言葉が吐けたのだと思う。やえが幸せじゃないのは、この街に来てから友達ができないせいだと思っていた。
俺の問いかけに、やえは「わからない」と言った。俺は、やえの回答こそが「わからない」と思った。
「……わかんないの。でも、生きるのはずっとつまらない」
「そうなの?」
「だれもわたしのことなんか見てないし興味ないって思うのに、みんなどうせわたしのこと嫌いで、死ねばいいって思ってるんだろうなっても思うの」
「そうかなぁ。死ねとか思わないけどな、フツウ」
「綺くんは、やさしいね」