きみと真夜中をぬけて





高校2年生の春。



いつも通りバイトに向かうと、「桜井くんは何も聞いてない?」と、主語のない言葉をかけられた。何のことを言っているかわからず首をかしげると、店長さんは困ったように眉を下げて言った。




「名生さんからね、突然『辞めます』って連絡が来たのよ」

「え」

「理由はなにも教えてくれなくてね。ごめんなさい、すみませんって、謝るばっかりでねぇ……。桜井くん、同じ学校だから何か知ってるかと思ったんだけど、何も聞いていないのかしら」

「いえ、何も……」

「名生さん、よく働いてくれていたし明るい子だったから。なにかあったのかしら……、心配よねぇ」




状況がなにも理解できなかった。


春休み中はたくさんシフトにも入っていたし、元気そうに見えた。2年生のクラス替えでも彼女と同じクラスになることはなく密かに肩を落としてから数週間後のこと。

今年こそは、バイト先にとどまらず学校でももっと関わっていきたいなと、心に決めたばかりだった。



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