きみと真夜中をぬけて






23時───世界がだんだん眠りにつき始める頃。



街の明かりが消え、誰を対象にしているのかもわからない街灯が虚しく灯るだけの夜は、私にとってとても大切な時間だった。



「あぁ、蘭、今から行くの?」



玄関でスニーカーを履いていると、お風呂からちょうど出た母にそう声をかけられた。耳だけを傾け、「うん」と短く返事をする。


夜に部屋を出ることを日課にしてからもう2年が経とうとしている。

ともに暮らす母は、たとえ夜であろうと外の空気を吸うことを良しとしているようで、「気を付けてね」「スマホもった?」と最低限の言葉を毎日かけてくれるだけだった。


母の娘じゃなかったら、私は今頃社会に対して呼吸困難で、そのまま溺れてとっくに死んでいたと思う。


夜を知らなければ、今の私はいなかった。




『若いってのは、それだけで人生の武器だから』



自慢の母の常套句に、私は今までもこれからも救われて続けている。




「いってらっしゃい、蘭」

「うん」

「明日も学校なんだから、あんまり遅くなるのはダメだよ」

「うん、わかってるー」



履きなれたスニーカー。半袖の上に羽織る、夜の肌寒さを考慮したパーカー。イヤフォンとスマホは人生の必需品。帰りがてらアイスが食べたくなった時のための、予備の500円。




それから──18歳の私。

全部、夜を超えるための私の武器になる。



「いってきます」

母は、今日も笑顔で私を送り出してくれた。


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