きみと真夜中をぬけて
人の好きを否定するには、同じだけの条件を差し出さないと割に合わないと思う。
この世は理不尽で溢れている。
人の気持ちを考えずに発言をする人ばかり。自分の正義を押し付けて、良かれと思った言葉で人を傷つけていることに気づかない。
悔しい、と言った綺が当時の部長さんの言葉にどのように感情を揺さぶられたのかは分からないけれど、そこに部活を辞めてしまうほどの影響力があったのは確かだった。
「蘭はさぁ、そういうのないの?」
不意な質問に首を傾げた。
そういうの、とはつまり 概念ごと抱きしめてしまいたくなるようなもの。
私にはあるだろうか。
考えて、「あぁ……」とすぐに自分に納得し、首を横に振った。
「べつに、ない」
「ないんか」
「ないよ。基本なんでもいいの、本当に」
夜も星も公園も音楽も、人生も。
執着するほどの思い出はなく、普通だと言える日々でもなく、また、特段好きだと言えることも何もなかった。
自分で言葉にして、私にはやはり何も無いなと虚しくなる。