きみと真夜中をぬけて




立ち上がり、トントン…と二回つま先を鳴らす。母にそう声をかけ、ドアノブに手をかける。ガチャ…と扉を半分開けた時、


「あ、そうだ蘭」


思いだしたように母が言った。



「また、来てたよ。手紙」

「…あー…、うん。そっか、おっけぇ」

「今回はさくらんぼ柄。かわいいねぇ、レトロで」

「私、もう行くね」

「また1か月経ったのね…早いわぁ」

「ああ、うん、じゃ。行ってくるね」



母の言葉を遮り、握るようにドアを開ける。


母は私の態度について何も言わない。けれど代わりに、あからさまに手紙の話題を避けていることに気づかないふりをするのだ。

毎月下旬頃に、かわいいレターセットがポストに入っていること。宛名と差出人はいつも変わらないこと。


手紙が届くたび、母は敢えてそのことを私に報告してくる。いつか、どこかで、私の気が変わることを、きっと本当は願っているのだと思う。



「リビングの、引き出しのとこに入れておくからね」



返事はしない。手紙が届くようになってから、この言葉に頷いたのは最初の3回までだった。唇を噛みしめ、母とは目を合わせずにドアを開けた。


手紙(それ)は、私の夜には必要ない。

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