きみと真夜中をぬけて
レターセットをついつい集めてしまうのは私の癖で、趣味でもあった。
幼い頃、意味もなく人に手紙を書くことが好きだったことの名残だろうか。
小学生の頃までは携帯を持たせてもらっていなかったので、その影響もあったと思う。可愛い便箋に文字に起こして自分の気持ちを伝えることに楽しさを覚えていた。
けれど、年齢を重ねるにつれ、電話やラインが当たり前の時代になった。世の中の普通にベクトルを合わせるのは当然のことで、手紙は私の生活からどんどん離れて行った。
世界は矛盾している。
手紙という文化を人間から遠ざけるかのように電子機器を発展させていくくせに、雑貨店は文具店は世界に歯向かうように新たなかわいいを開発していて、ひと昔前にはなかった面白かわいいレターセットが増えた。
手紙を送る相手は、母しかいなかった。誕生日と母の日に、450円のレターセットを新調した。
4枚入りのうち、使うのは1枚だけ。これはいつからか決めた自分だけのルールだった。同じ人に同じデザインを使わない。母にあげたかつての手紙を並べたらわかる。そのどれもが、私がみつけた可愛いレターセットだった。