きみと真夜中をぬけて
私たちは、お互いのことをまだ何も、よく知らない。
知っているのは名前と趣味、最近は待っていること、苦手なこと、好きなこと。つまるところ、基本情報に当たる情報は、お互い無に近かった。
そんな綺に、私は突然不登校前に仲良くしていて友達から手紙が届いたという旨のことを話していたのか。
綺からしたらだいぶ脈絡のないことだったに違いない。「なんかごめん」と謝れば、「無意味な謝罪は事務所NGです」と言われてしまい、思わず笑ってしまった。
「まあでも、あれじゃん?」
「どれじゃん」
「その手紙届けてくる友達もさ、いっぱいいっぱいだったのかもしんねーじゃん?その時はきっと、蘭を守る方法までたどり着けなかったのかもよ」
綺が呟く。そうかなぁ、そうだよ、どうかな、そうだといいなって思うだろ、蘭も。短いやり取りが続く。
もし杏未が、あの時 私の肩を持つことと、マイやシホの機嫌を損ねず保身することの天秤にかけられていたとしたら。
考えることが同時にたくさんあって、私を守る方法までたどり着けなくて、それで。
「蘭のことが大切だから、敢えて手紙を選んだのかもしれない」