きみと真夜中をぬけて
「待ってんじゃないすか?その人」
「……そうですね。そんな気がします」
「またお待ちしてますね。おれは、あなたを見る度、少しずつ勇気貰ってるから」
同じ世界を生きるものとして。
誰の何にもなれないと思っていた私でも、誰かの力になれていたらしい。
声にならない感情が込み上げる。
ふ、と小さく微笑んだ店員さんにつられ、私も ふ、と笑った。今日はとても、特別な日だ。
「……あの、私も実はずっと、言いたいことがあったんです」
「はい」
「名前……なんて読むんですか」
名前を覚えるのが得意な私が彼を頑なに店員さん、と心の中で呼んでいるのは、彼の名前の漢字が読めないからだった。
「マモナカです。……マモナカ ヒカリ。おれには眩しすぎる名前なんで、少し恥ずかしいです」
幻中 光。ネームプレートに印字された漢字を今一度見つめる。
とても素敵な、彼にぴったりの名前だった。
恥ずかしいと目を伏せた幻中さんに、「よく似合っていますよ」と言えば、「夜行性だし、マモナカって聞き間違いも相まって 真夜中ってあだ名付いてますけどね」と言われた。どちらにせよ、素敵だと思った。