誘惑の延長線上、君を囲う。
珍しく日下部君が慌てている。同様鯖の味噌煮定食を注文した日下部君だったが、箸が進んでない。日下部君が秋葉さんを好きなのは知っている。本人には聞けないから、真相を知るチャンスは今しかない。

「私も聞きたいな、秋葉さんの事」

平常心、平常心。落ち着こう。無理矢理に笑みを浮かべて、聞き出そうとした。私の顔をじっと見てから、日下部君は口を開く。

「確かに秋葉の事は好きだったよ。でも、妹みたいな存在だったから、その延長で過ごしていた。もう終わった話だから……」

箸を置いて、俯き加減で話をした日下部君。

「日下部君がもっと早くに紫ちゃんに告っていたら、何かが変わっていたかもしれないのに。どうして、そんなに様子見みたいな事をしてたの?」

しんみりした答えに対して、澪子ちゃんは寂しげな表情を浮かべて尋ねた。

「それは……、さっきも言った通りに妹みたいな存在だったから関係性を壊したくなかったんだ。でも、気持ちは伝えた。振られたけどな!」

「副社長と紫ちゃんの結婚が決まったって聞いたから、流石に吹っ切れてるだろうなと思って、つい聞いちゃってごめんね。でも、何だか、日下部君が報われなくて悲しい……」

急に澪子ちゃんがメソメソと泣き出した。同期は皆、日下部君の気持ちに気付いていたので、秋葉さんとくっつくと思って応援していたらしい。
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