誘惑の延長線上、君を囲う。
爽やかイケメンはお酒に弱く、普段から飲まない。私はどちらかと言えば酒豪クラスなので、伊能さんとは職場の飲み会以外ではお酒を交わした事はない。

「ありがとうございます。では、遠慮なく頂きます!佐藤さんはお酒好きですよね。僕は嫌いじゃないんですが、直ぐに酔いが回ってしまうので困ります」

「体質もありますから、仕方ないですよ」

不動産屋以外のたわいもない会話もして、あっという間に二時間が過ぎてしまい、そろそろ帰ろうかと言う事になった。カフェの外に出て、伊能さんと一緒に駅までの道程を歩いて居る時に着信音が鳴る。日下部君だった。メッセージアプリで、『以前の職場の方に会うから今日は遅くなるかも』と仕事終わりに送信しておいたが返信はなく、しばらくしてからの連絡だった。

伊能さんにすみませんと断り、電話に出た。

「今日は遅くなるって言ったでしょ。ご飯食べてないなら、何か買って帰るから」

『いや、そういう事じゃなくて……、前の職場って考えたら男ばっかりだったな、って心配になって電話した』

「別にやましい事は何も無いよ。今、帰ってるから、又ね」

プツッと一方的に電話を切った。

「すみま、」と言いかけた時、伊能さんは私を見て、「彼氏さんですか?」と真剣な眼差しをしながら聞いてきた。電話の声が漏れてて、会話が聞こえたのかもしれない。

「いや、そーゆー関係じゃないんです。同居人です。いや、私が住む所が無くてお世話になってる人です」

彼氏でも無いから、そういう関係性になる。
< 142 / 180 >

この作品をシェア

pagetop