誘惑の延長線上、君を囲う。
「そうですか……。もうすぐ、クリスマスですね。佐藤さんはご予定ありますか?」

「予定ですか?特にはありませんけど?」

世間はクリスマスモード。煌びやかな街並みにクリスマスソングが流れている。丁度、横断歩道が青信号待ちになり立ち止まった時に周りを見渡しながら、私の手を取り、伊能さんは言った。

「クリスマスは佐藤さんと過ごしたいな。Mさんの件の連絡をする度にいつも、佐藤さんともっと過ごしたかったな、って思ってたんです。良かったら僕と過ごして貰えませんか……?」

「え……?」

聞き間違えだろうか?伊能さんからクリスマスのお誘いがあった。青信号になり、手を繋いだ形のまま、横断歩道を渡る。伊能さんの冷たい手が私の冷え切った手をじんわりと暖めていく。

「佐藤さんと出会った時は彼女と別れたばかりでした。傷心してた所に癒してくれたのは佐藤さんで、仕事で会える度に舞い上がってました。いつの間にか、好きになってたんですよね!」

私は、こんなにもストレートに告白された事なんてない。照れながらも、気持ちをぶつけられるのは嫌じゃないかも。

「ずっと佐藤さんと、こうして過ごしたかった。今日は勇気を出して、お誘いして良かったです!返事は今日じゃなくて良いです!良い返事だったら嬉しいけど……、良い返事じゃなくても貰えると嬉しいです」

私は、コクンと首を縦に振って頷いた。

まずい、揺らぎそうな自分が居る。伊能さんは誠実だし、きっと私を大切にしてくれると思う。

でも、いつも脳裏に浮かぶのは日下部君だ。完全に囚われていて切り離せない。
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