誘惑の延長線上、君を囲う。
両手を日下部君の背中に回して、胸板に顔を埋める。何故だか、泣きそうだ。日下部君を失うのが怖い。この温もりを感じる事も出来なくなり、今の生活も失ってしまう事を私は耐えられるだろうか?

離れようって決心したハズなのに失うのが怖い。

「やっぱり、男と会ってたのか?友達となら、いつもは何時には帰るとか送ってくるくせに、何にも連絡が無かったから。それに、前の職場は男ばっかりだから……」

ヤキモチなのか、どうか。ヤキモチだとしても、好きだって一言も言わないし、日下部君はズルイ。

「く、日下部君には関係ないでしょ……!」

腕を振りほどき、無理矢理に身体を離す。

「シャワー、浴びてくる」

日下部君に背中を向けたまま、振り向かずにズカズカと怒ったように力強く歩き出す。

もう、心が限界なんだ。涙腺が決壊し、ボロボロと涙が溢れ出す。生活を共にして、何日かに一度は身体を重ねているのに不安しかない。
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