誘惑の延長線上、君を囲う。
……それなのに、何故、急に連絡が来たのだろうか?電話番号も自宅も知らないはずなのに。

日下部君からの電話の後、10分位は呆然としていただろうか?頭の中が混乱しているのと、嬉しかったのと。自分から逃げたくせに嬉しかったと思う事もどうかとは思うのだけれども、好きだった人から連絡が来たら純粋に嬉しいものだよね?と無理矢理に自分を丸め込もうとしていた。

「委員長、突然、悪いな」

「だ、大丈夫だよ。私、今、仕事辞めて暇してるから」

宣言通りに15時位には自宅付近まで車で迎えに来てくれた。助手席に乗せられて、ドキドキしている。綺麗に掃除してある車内は日下部君らしいし、爽やかな良い香りが漂っている。

「……仕事辞めたのは知ってる」

「……え?何で?……と言うか、電話番号も自宅も何で知ってるの?」

「職権乱用。彩羽コーポレーションに勤務してるから」

「え?じゃあ、人事担当者?」

「違う。委員長がエントリーして来たИatural+の部長だから、俺」

「え、えぇー!?」

事実を聞いて驚愕した。部長クラスなら当然、人事にも関わって来るし、応募した際の個人情報も見る事は容易い。その経緯ならば、個人情報もダダ漏れだった訳だ……。

「で、でも、面接は来週になるって人事担当者が言ってたけど……」

「今日は面接に呼んだ訳じゃない。個人的な事」

……個人的な事、ね。きっとこないだの件だ。もう逃げられない、片付けなきゃいけない。"もう良い歳の大人が一夜限りなんて当たり前だから忘れてくれ"と言ってくれて構わない。日下部君からはっきり言われたら、私は今度こそ、完全に失恋出来るから───……
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