誘惑の延長線上、君を囲う。
「あのね、もう、日下部君に振り回されるのは嫌なの!秋葉さんの代わりはもう嫌なの!」

リビングのソファーにバッグを置いて、近くにあったクッションを日下部君に投げつけた。日下部君は投げつけられたクッションは床に落としたまま、私を力強く抱き締めた。

「代わりになんてしてない!」

「してるよ!私は秋葉さんみたいに可愛くもないし、女らしくもない。それに……一度だって好きって言ってくれない!もう、信じられないの!」

私を力強く抱き締めている腕から抜け出したいのに、もがいても抜け出せない。

「お前に会った時、秋葉に失恋した後だったから……好きだって言えなかった。好きだって言っても、軽々しく感じるかなって思って俺だって悩んでたんだよ!」

「悩んでないで言ってよ。言わなきゃ分かんないの!……ずっと、ずっと待ってたんだよ!わ、たし……ずっと、まっ、」

駄目だ。涙腺が決壊する。言葉が詰まる。

「琴葉、愛してる」

日下部君は抱きしめていた腕を離し、私の耳に手を添えると愛の言葉を囁いた。

「これからは他の男なんかにそそのかされないで、俺だけを見てろ。……ずっと一緒に暮らそう。一生、愛すると誓うから」

どちらかともなく、自然に唇を重ねた。私は日下部君の首の裏に両腕を回し、深く愛を確かめ合う。

日下部君から欲しい言葉を貰えた私は、天にも登る位の幸福に包まれた。沢山、回り道したけれど、幸せになっても良いんだよね?

引越しを考えていたのに、新たな居場所は正式に日下部君のマンションとなった夜だった──
< 160 / 180 >

この作品をシェア

pagetop