誘惑の延長線上、君を囲う。
私が学生時代から日下部君を好きだと知っている友人にも、一緒に住んでいることなどは一切伝えていなかった。知ってたのは親友ただ一人。今日は都合により来れなかった親友。日下部君との事は親友にだけは、言わずには言われなかった。楽しい事も苦しい事も共にしてきた親友だからこそ、全てを受け止めてくれている。

「えっとね、」と話をしようとした時に日下部君は間髪入れずに「俺達、近いうちに籍入れる事になったから」と言った。周りの皆は歓喜し、高校時代の担任の先生も喜んでいる。

「日下部と佐藤は本当に仲が良かったけど、お互いに恋愛感情じゃないのかな?と当時は思ってたんだ。教師という立場上、そんな事を口には出さなかったけどな。本当におめでとう!」

先生はうっすらと涙を浮かべていた。久しぶりに会う先生は白髪混じりになっていて、おじさんになっていた。高校時代の時は30代前半だったのにな。会わない年月は色んな変化がある。日下部君と私の関係性が変わった様に、皆も結婚して子供が居たり、出世していたり、既に離婚している同級生もいるみたいだった。

「先生、日下部はずっと佐藤に片思いしてたって知らなかったの?」
「それを言うなら、琴葉も片思いしてたよね!なのに、二人共、告白もしないで卒業しちゃってた!」

男性陣は日下部君側の事情を女性陣は私の事情をバラしていた。嘘でしょ?日下部君が私に片思いしてたなんて……!

「……っるせーな、黙ってろよ!そんな事は今更言わなくていーんだよ!」

日下部君は照れくさいのを隠す様にジョッキのビールを飲み干していた。
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