誘惑の延長線上、君を囲う。
面接ではないにしろ、私は何処に連れて行かれるのかな?不安に思いつつも、高校時代の昔話を楽しんでいた。日下部君はあの夜の話には一切触れず、思い出を語りながら車を運転している。

スーツ姿の日下部君が車に乗って現れた時、心臓が破裂するかと思う位にバクバクしていた。スーツ姿は高校時代の制服とは格が違う位に格好良い。正に仕事の出来る男に見えて、大人の色気を感じた。

心を踊らせながらも、心の奥底では苦痛だった。手に入らないと分かっているからこそ、思わせ振りに思えてしまう生殺しの時間が辛い。

「ここから少し歩くから」

コインパーキングに車を停め、オシャレな街中を二人で歩き出す。はたから見たらデートに見えるかな?

「……今日、面接じゃないって言ったからワンピース着てきたの?」

「……うん、何となくね。天気も良いし、ワンピースをずっとしまったままで可哀想だったってゆーのもあるけど」

期待してはいけないのに、普段はなかなか着ないワンピースなんかを着てきた私は滑稽かもしれない。

「そう。初めて見た」

こうして一緒に外出する事なんてなかったので、日下部君の前では制服がほとんどだった。私がワンピースを持っていた事を不思議に思っているのかな?

「私もスーツ姿の日下部君は成人式以来だよ。スリムのスーツが様になってるじゃん」

私は日下部君の一歩後ろを歩いていたので、背中をバシバシと叩く。なるべく正常心で居る為に茶化したり、冗談言ってなきゃ、二人で居るのはキツい。
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