誘惑の延長線上、君を囲う。
「じゃあ、露天風呂で倒れたり、のぼせちゃうといけないから、私も一杯でやめとくね」

そう言って、グラスに注がれた日本酒を綺麗に飲み干した後はお茶を飲んでいた琴葉。

豪華な料理を満喫した後はテレビを見ながら、僅かな時間まったりとした。満腹も落ち着いた頃、露天風呂に入る。「私が呼んでから来てね!」と言って、先に入った琴葉に呼ばれ、露天風呂に足をそっと入れる。琴葉の隣に肩を並べるようにして座る。

「雪が降って来たね。雪景色見ながらの露天風呂って、初めて」

「俺も初めて」

「二人で初めてって嬉しいね」

琴葉は、はらはらと舞い降りてくる雪を眺めながら照れくさそうに言った。

「……と言うか、露天風呂を彼女と二人で入る事自体が初めてだな」

「それを言うなら私もだよ」

客室の露天風呂は二人で入ってもゆとりはあり、あと三人位は入れそうな広さ。広さに余裕はあるが、琴葉を手元に置きたくて、そっと引き寄せた。

「家族が増えたらさ、子供達とも入りたいね。クリスマスやお正月もワイワイしながら過ごすって楽しいよね」

「そうだな」

「お正月に行った花野井家、一気に家族が増えたみたいで楽しかったよ。代々続いている名家なのに、そんな事を感じさせないアットホーム感、好きだなぁ……。それからね、陽翔君ともまた会いたいし、愛音ちゃんとはバレンタインのチョコを一緒に買いに行く約束したの」

花野井家は不動産取引が資本の企業で、建設やデパートなどの経営もしている。そこの企業で出会ったのが父親と、俺と有澄の母親だ。今はあんなにアットホームかもしれないが……、父親と俺も花野井家で暮らしている時は祖父母も厳しかった。年をとって丸くなったのか、やたらにお節介で優しくもある。
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