誘惑の延長線上、君を囲う。
「仕事帰りにね、たまたま寄ったの。おひとり様だから、週末は一人でお仕事お疲れ様会だよ」

「……おひとり様ねぇ。俺もそうだから、カンパーイッ!」

不意打ちに見せられた、笑顔は反則だ。酔っているせいか、目がトロンとしているが、男の色気と言うものを感じる。

「日下部君もおひとり様なの?」

「そうだよ、俺はずぅーっと、おひとり様」

端正な顔立ちをしている目の前の男が、今、この瞬間だけは私だけを見ている。高校時代、日下部君が好きだった私。甘酸っぱい青春時代の思い出が蘇る。

私達は成績の上位を争い、委員会や生徒会で一緒に役員をしたり、正に戦友と言う関係。容姿端麗、成績優秀で更には性格も良かった日下部君は女の子ならず、教師や同性にもモテまくりだった。私も想いを寄せていた一人だったが、気持ちを告げる事も出来ずに友情のカテゴリーからは抜け出せなかった。

気持ちを告げてしまったら、築いてきた友情が壊れてしまう。そう思ったら、行動を起こすことは出来なかった。

───あの時、気持ちを告げていたら私達はどうなっていたのだろうか?

「……弟にさ、好きな女、かっさわられて……格好悪いだろ?」

「ん?日下部君の弟って、今は高校生位?」

「違う。離婚した母親の子供。義理の弟って奴が居たんだよ、そいつに奪われた」

「そ、そうなんだ。……色々と衝撃的な話だね」

日下部君の家は幼い頃に離婚している。日下部君は父親に引き取られ、その後に再婚して弟が産まれたと聞いている。高校時代にまだ小学生に成り立てと言っていたので、現在は高校生だと推測する。その子ではないとしたら、義理の弟の話は初耳だ。
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