誘惑の延長線上、君を囲う。
「……委員長は?選り好みしてるからおひとり様なの?」

「し、してないよ!」

「委員長がおひとり様だなんて信じられない。委員長こそ、真面目で誠実な人……例えば医者とかと結婚しそうだったんだけどな」

私は真面目で誠実だけが取り柄の人は、きっと飽きてしまうと思う。日下部君には私はいつまでも優等生の委員長のままにしか見えてないんだろうな。

「余計なお世話だから!それからもう委員長じゃないんだから、委員長って呼ぶのは止めて!」

「はいはい、ごめんって」

私は右手に持っていたグラスをドンッと勢い良くテーブルに置く。また可愛げのない一言を発してしまった。

「い、……佐藤の好みのタイプってどんな人?」

日下部君は委員長と言いかけて、慌てて私の名字を呼んだ。私のタイプを聞かれても、目の前の貴方でしかない。ずっとずっと憧れの存在。時を経て再開しても尚、それは変わらない。

「教えない。色んな意味で詮索されたくないから。好みなタイプを教えると友達紹介するよ、とかお見合いどう?とか言われるから」

日下部君だなんて、流石に言えないから誤魔化すように答える。

「……随分とひねくれ者になったな、佐藤は」

「だって私、皆が思ってるよりも優等生じゃないもの。こっちが素の私。可愛げがなくて、お酒が大好きな私が今の私なの」

「そっか。……今の佐藤の方が前よりも好きだな」

「え?」

「高校生の時は真面目が制服を着て歩いてるみたいな人だったから、冗談言ってもあんまり笑ってくれなかったりしたけど、今の方が親しみやすくて良いよ」

咄嗟に聞き直してしまったけれど、友達としての"好き"だよね?Loveじゃなくて、likeの方。……だとしても素直に喜ばしくて、舞い上がってしまう。

「……あ、ありがとう」

ニコッと不意打ちの笑顔を向けられる。日下部君はお酒が入ると甘くなる人なんだな。当人は無自覚だろうけれど。
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