誘惑の延長線上、君を囲う。
私は日下部君の背中に腕を回して、抱きしめ返す。胸板に耳をくっつけると日下部君から聞こえる心臓の音が心地良い。ぎゅっと抱きしめられていると安心する。

「自分の普段着てる服を女の子に貸すのは初めてだけど……、男として憧れのシチュエーションだな」

「硬派なイメージが崩れちゃうよ、日下部君の」

「そんなの、勝手なイメージにしか過ぎない。俺だって、所詮ただの男だよ……。よし、充電完了。今度こそ、寝よう……」

日下部君は私の身体から離れて洗面所に向かったので、私も一緒に着いて行き、歯磨きをした。寝る支度が整い、お言葉に甘えて日下部君のベッドに入る。「おやすみ」と何回か交わすが、なかなか寝付けない。

「佐藤、寝られないの?」

「うん……、なかなか眠れない」

私がベッドの上で何度も向きを変えてゴロゴロしていた事が、ソファーで寝ようとしていた日下部君に知られてしまった。

「もう少しだけ話をしようか?」

日下部君は私が横になっているベッドの端に座り、私を見下ろした。ベッドに手を着いて座って居たので、私は起き上がって、日下部君の腕に絡み付く。

「話をすると言うか、えっと……く、日下部君も…ベッドで寝ない?私、枕が変わると眠れない人だから。ベッドを占拠してて言う台詞じゃないけど」

「あのさ……、俺の事、誘ってるの?佐藤の可愛い姿を見せられて、これ以上、理性を抑える自信がないから。さっきも言ったけど、所詮は俺もただの男だからな」
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