誘惑の延長線上、君を囲う。
翌日の朝、枕元に置いておいたスマホのアラーム音により、無理矢理に叩き起される。今となっては分からないが、私達は何時に眠りについたのか?重だるさを全身に感じる。ダルいなぁ、仕事辛そうだなぁ……。

日下部君は背後から私を抱きしめる形で寝ていた。アラームを止める為に手を伸ばし、スマホを取る。もう起きなくちゃ、と連続で鳴り響く準備をしていたアラームを解除した。ベッドから降りようとして体制を変えようとすると、抱きしめられている両腕がぎゅうっと力強くしまった。

「おはよう……、起きてる?」

「……起きてる。けど、非常に眠い」

「ふふ、同じだね」

私も日下部君も気合いを入れないと起きられなさそうだった。アラームを全て解除したので、二度寝したら完全にアウト。しかも私は自宅に着替えを取りに帰らなければならない。

「朝ご飯、どうする?」

「とりあえず、コーヒーブラックで」

ベッドの上に寝転がったまま、尋ねる。私の背中に顔を埋めて、欠伸をしている日下部君からすり抜けてベッドから降りた。すぐに湧く電気ポットでお湯を沸かし、日下部君の許可を得たので冷蔵庫の中身をチェックする。

卵やウィンナー、とかおかずになる物が何もない!あるのは昨日、コンビニで買って来た菓子パンだけ。買う時に確認すれば良かったなぁ……。

「いつも朝ご飯は食べないの?」

「……うん、あんまり食べない。一人だと作るのも億劫だからコーヒーだけの日がたくさん」

「身体に悪いし、少しだけでも口に入れた方が良いよ」

ソファーに二人並んでの朝のコーヒータイム。昨日、購入した菓子パンも頬張る。初めて身体を重ねた、こないだとは異なる、二人一緒の朝。何だかくすぐったくて、照れくさい。

これがカレカノな関係だとしたら、幸せ過ぎて最高なのに。私達は恋とも呼べない、偽りの愛しか交わす事が出来ない、寂しさの隙間しか埋められない擬似恋愛をしている。

いつの日か、この関係さえも壊れてしまった時、私は立ち直れるだろうか───?
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