誘惑の延長線上、君を囲う。
理解不可能な領域
眠い。ダルい。腰も重い。

日下部君の自宅を出て、電車に乗り、自宅で着替えて再び電車に乗って出勤して……。店舗近くの駅に着いたけれど、身体が思うように動かなくて辛い。寝不足だからか、身体に熱っぽさも感じる。

久しぶりの梅雨の晴れ間で、朝からお日様が光り輝いている。じわじわ暑くて、首元を隠す為のハイネックが煩わしい。昨日までは少し肌寒い位だったのに、今日は暑くなるってどういう事よ?駅から店舗までの距離でも汗ばみそうで嫌だった。案の定、店舗に着くまでに少しだけ汗ばみ、中に入ってすぐに空調を入れて冷やす。モヤモヤじめじめしている空気が、空調が効き始めるまでは暑い。

「はい……、ИATURAL+です。あっ、日下部君?さっき着いたから大丈夫だよ。え……?」

開店準備をしていると店舗の電話に日下部君から着信があった。どうやら、私は日下部君の自宅に財布を忘れたらしい。電車も立ち寄ったコンビニも電子マネーを利用しているので、現金は必要ない。眠気とダルさで頭が働かないのもあり、財布がない事に気付けなかった。

日下部君は何度もスマホに電話をかけて、メッセージアプリにも送信したと言っていたので確認すると……確かに何件も電話やメッセージが届いていた。そうだ、昨日からずっとサイレントのままにしておいたからだ。私は常に店舗内ではお客様に聞こえないように配慮して、サイレントにしている。昨日は、あんな事になってしまったから……切り替えボタンを変える事自体に気が回らなかった。

「もう出勤しちゃった?出勤する前なら車を取りに来るついでにお店に置きに来てくれる?……え?そうなんだ……、分かった。じゃあ、また……」
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