誘惑の延長線上、君を囲う。
それは私も同じ。一人ぼっちになれば、切なさと悲しさが波のように押し寄せてくる。日下部君は私が"うん"と言うのを待っている。私達は付き合ってもいないから、釈然としない。日下部君と一緒に住めたら、私も幸せだよ。ただ、その目先の幸せを本物の幸せだなんて、勘違いしたくない。勘違いした先には、虚しさしか残らないから……。

「私も同じく寂しいんだけどさ……。でもね、この先、日下部君に彼女が出来たら私は追い出される訳じゃない?そしたら、また私は一人ぼっちのままなの」

「彼女……?」

「うん、彼女」

「俺ももう30だから、彼女よりも結婚してくれる相手を探したいからなぁ」

「だったら……尚更、私と一緒に住んじゃ駄目だよ。結婚前提の彼女探さないと」

日下部君は運転しながらボヤいていた。私は自分の気持ちを知られて関係が終わってしまうのを恐れて、理想とはかけ離れた事を言ってしまう。彼女にもなれない私が、結婚相手になんてなれないもの。
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