誘惑の延長線上、君を囲う。
日下部君は黙ってしまった。私の余計な一言が原因だったのは分かっている。私自身にも辛い内容の言葉でしかなかった。素直になれない、私が憎い。

高校時代から言い出せなかった『好き』の二文字。あの日、慰めるだなんて言わずにいたら、抱かれなかったら、……ただ単に再開した同級生のままでやり過ごせていたら、私達はどうなっていたのかな?

日下部君がせっかく一緒に住もうと言ってくれても、飛び込んで行く勇気もない。意気地なしのダメ女。

「その……嫁さん候補に佐藤がなってくれたら良い。交換条件として、俺が佐藤の旦那候補になるから。それじゃ、ダメか?」

長い沈黙の後、日下部君が放った言葉。茶化さずに真っ直ぐに降りてきた言葉。

「だ、ダメじゃ……ない、よ。全然……」

私は小さく消えそうな位の声で返した。

「じゃあ、決まりな。今から、彼氏とか彼女とか超えた関係だからな、俺達は。結婚相手にふさわしいかどうか……」

あぁ、このまま本当に結婚相手となってくれたら、どんなに幸福な事か。
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