誘惑の延長線上、君を囲う。
「委員長……、髪、伸ばしたんだ」

「……うん」

日下部君はテーブルに顔を突っ伏したまま、私の方を見ては髪の毛をクルクルと指で絡ませた。

「可愛い、と言うか……、綺麗になったな。俺は委員長がどんな姿をしてたって気付くよ」

艶のある流し目でそんな事を言うのは止めて。気付いてたならば、最初からそう言って。

「私も……、日下部君がどんな姿をしてたって気付くよ。同じ空間に居れば、人混みの中だって探し当てられる」

「……流石が俺の相棒だな」

口角を上げて微笑みながら、"相棒"だと呟く。やっぱりね、日下部君は私の事を女としては見てくれないんだ。

「相棒だからね、……一晩中、慰めてあげるよ」

残りのウォッカベースのカクテルを飲み干す。喉が妬けるように熱い。私は模索する。大人になった今だからこその慰め方。

「……委員長が慰めてくれるの?」

「私が日下部君の失恋を癒して、慰める。とりあえず、もう一杯だけ飲ませてくれる?」

「……ん、いいよ」

私は先程のウォッカベースのカクテルをお代わりし、高鳴る胸を抑える。私自身も酔ってしまえば、大胆にだってなれる。高校時代には出来なかった、アラサーになった私だから出来る事。今こそ、優等生の委員長とはサヨナラするチャンス。

一筋縄では手に入れられない事は充分承知している。高校時代の硬派なイメージの日下部君には使えなかった手段を使う。

女らしくなった私を見て欲しい。一度きりでも構わない。貴方と関係を持ちたい。

「……すぐ近くにホテルを取ってあるの。行こう?」

日下部君に知られないように二人分の会計を済ませ、店の外へと出る。生ぬるい春風が私達を掠めていく。私は酔っている日下部君の手を握り、歩き出した。
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