誘惑の延長線上、君を囲う。
二ヶ月に一度位だろうか、おひとり様の私は贅沢をする事にしている。日頃の仕事の疲れを癒してくれる人など周りには居ないから、その日だけは外食をして好きな物を食べて、飲んで、少しだけ高級なシティホテルに泊まる。

部屋には誰一人も来ないのに毎回ダブルルームを予約して、広々と利用する。勿論、次の日の朝はルームサービスの朝食を利用する。淹れたての紅茶にパンケーキ又はフレンチトーストの組み合わせがお気に入りだ。

「日下部君、……先にシャワー浴びる?」

弱っている日下部君を利用して、半ば無理矢理にホテルの部屋に連れ込む。ホテルに来るまでは乗り気だった日下部君も歩いて酔いが覚めてきたのか、ホテルに着いた途端に躊躇し始めた。

「いや、俺、帰るよ。終電まだあるから……」

酔い潰れる寸前だったくせに、理性を保とうとする彼が憎たらしい。私なんかよりも、優等生の硬派は日下部君だ。

「日下部君、逃げる気?会わない内に随分とヘタレになったのね?何事にも物怖じしない日下部君はどこに行ったの?」

私はわざと逆撫でするような言葉を吐き、日下部君を煽った。スーツの上着を脱ぎ、立ち竦んでいる日下部君の頬に手を伸ばした。

もうどうにでもなれ、……そんな気持ちのまま、大人の女を演じる。虚勢を張っていきがってみるが、内心はこれ以上に拒否されるのが怖くて怖くて堪らない。

「……もう引き返せないからな。途中で泣いても止めるつもりはない」

ドサッ。鈍い音と共にソファーに押し倒される。
< 7 / 180 >

この作品をシェア

pagetop