ストーリー
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『ピンポーン』という軽い音と共に銀行の受付に表示される92番の数字。振込用紙を用意していた希子は番号の表示された受付へ足を運んだ。
「振り込みをお願いしたいんですが」
受付の情勢の顔を見ながら振込用紙を差し出すが『船瀬さんだよね』と言われてきょとんとする。
受付の名前には高畠えり子と書いてあった。
「高畑さん?高校の?」
あまり接点は無かったが、同じクラスのクラスメイトだ。最近どう?なんて他愛もない会話をしながら近況報告をする。
「変わらないね」
相変わらず色々なことに興味を持っているけれど、なかなかみんなみたいにこれが人生に欠かせないっていう物を見つけられなくて。
そう言った希子に言ったえり子の言葉だった。
「高校当時からふわふわして、すきなように生きている感じがしていたけれど、今も何か一つに縛られていない感じが、船瀬さんらしいよ。なんだか羨ましいな」
自分らしい何かを探し続けていた希子は、何か特別な好きや趣味がない自分を自分らしさのない自分だと思い込んでいたが、周りから見ると周りに流される自分という物が自分らしさだったのかと素直に驚いた。
考えてみるといろいろなものに興味を持ったお陰で、浅くではあるが広い知識と経験を得ることが出来た。
何かに縛られることなく気になったものに色々と手を出すというのはもしかしたら強みなのかもしれないと思い始めた。