大和の風を感じて 【外伝 】
次の日の事だった。
瑞歯別皇子(みずはわけのおうじ)の提案で、近くに皇族が狩りに使ってる山があるので、そこに行ってみないかと、阿止里(あとり)達を誘った。

瑞歯別皇子としては、昨日の償いも兼ねての事だろう。

日頃から狩りに使われてる事もあり、山の中にはいくつか小屋も作られており、山道もそれなりに整えられていた。

阿止里も瑞歯別皇子に同行して、狩りに精を出した。
阿止里自身も、昨日のショックを引きずらずに済めるのと、この皇子が本当に信頼出来る人物か知りたいと思った。

そして思いのほか、今日は割りとたくさんの動物を捕まえる事が出来た。

そんな中、阿止里が瑞歯別皇子に話しかけて来た。

「皇子は、そのう。佐由良をどうしようとお考えですか」

瑞歯別皇子も、やはりこの件を聞いてきたかと思った。この言う場面でもないと中々聞きにくいだろう。

「あいつは、妃にするつもりだ」

瑞歯別皇子は山道を歩きながら、阿止里に素っ気なく言った。稚田彦(わかたひこ)は少し離れた別の陣として、歩いて来ている。なのでここで阿止里に襲われてしまえば、彼もどうしようもない。それでもあえてこの状況にした。

「なる程、そちらはちゃんと考えられてるんですね」

阿止里としても、やはり佐由良には幸せになって貰いたい。それが単なる側室の1人のような扱いならば、中々許せれるものでは無かった。


「そう言えば、皇子はまだ誰も妃を娶られてないと聞いてます。だから吉備でもちょっとした噂になってました」

「なに、噂だと?」

瑞歯別皇子もそれは意外だなと思った。やはり地方に行くとそんな事でも噂にされるのだろうか。

「はい、皇子はどんなに綺麗な娘でも全く見向きもしないと。それだけ相手を慎重に選んでるのか、それとも単に興味がないのかのどちらかと」

(なる程、そんな話しになってるのか)

皇子はその話しを聞いて少し愉快に思えて来た。だから阿止里も佐由良が取れる事はないと思ったのだろう。

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