嫁ぎ先は水神様~ただ身を投げただけなのに~
ときはまだ、泣いている。

突然私が帰って来て、生贄にされそうになったとき。

それは、泣くしかないよね。


「とき……」

手を伸ばすと、ときに振り払われた。

「はやて。」

そしてときは、私の目の前で、はやてに抱き着いた。

「どうしよう、私。生贄にされたら。」

「落ち着け、とき。」

「落ち着いてられないよぉ。」

はやての胸で泣く、ときが羨ましかった。

私は、泣く時はいつも、一人だった。


「せっかく、はやてと結婚できるのに。」

ぐずぐず泣くときの背中を、はやてが摩った。

「はやては、どう思っているの?私が生贄になっても、いいと思っているの?」

「そんな事は、思っていないよ。」

「嘘!だったら何で、さっき私を助けてくれなかったの!?」

ときの怒りは、今度ははやてに向けられた。

「はやては、村の人達に、逆らえないんでしょ!」
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