嫁ぎ先は水神様~ただ身を投げただけなのに~
「これは……」

「るか様が、寝かせてくれなかったんでしょ。」

「えっ……」

「よかったわね。願いが叶って。」

私はぶっきらぼうにそう言うと、ほのさんに背中を向けた。


昨日まで、るか様に片想いをしていたのは、ほのさんの方だった。

なのに今日になって、立場は逆転。

るか様を切なく思う人は、私に変わったのだ。

でも、私はほのさんのように、想いを心に秘めながら、ここで暮らす事はできない。


「ちょっと、るか様の元へ行ってくる。」

「はい。」

ほのさんを見る事なく、私は部屋を出た。

いつもの廊下が、別の廊下に見える。

神殿に入る前に、私は深呼吸をした。


「るか様。」

声を掛けると、るか様はちらっと私を見た。

いつもは、私の方を向く為に、横に振り向くのに。

昨日の夜の事で、私の顔を見れないのだろう。

「隣、座りますね。」
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