囚われて、逃げられない

束縛する

｢野々花！｣
｢へ？
あ、東生くん！｣
｢お疲れさん！どう？最近｣

この日は泰氏は外回りで、久しぶりに泰氏と野々花は離れていた。

泰氏の言ったように、びっくりする程に泰氏は野々花から離れない。
朝はぴったり抱き締められて目を覚まし、一緒に洗面をして、一緒に朝食を作り食べる。一緒に片付け、一緒に野々花の着る服を選び、一緒に出る。
ゆっくり歩いて出社して、常に泰氏の目の届くところで野々花は作業する。

更にもしお手洗い等で離れる時は、一度泰氏に報告してからでないと叱られるのだ。

前に一度、泰氏に伝えずにトイレに行ったことがある。
すると空いた会議室に連れていかれ、かなり狼狽して訴えてきたのだ。
｢野々は、俺を不安にさせて楽しい？
よく俺から離れられたね？
野々は平気なの？俺から離れて。
もしかしたら、この数分の間に連れ去れてたかもしれないんだよ？
野々は俺がいないと生きていけないはずなのに、こんなに簡単に離れるなんてあり得ない！｣
と。

たかがトイレなのに……と思うが、言い返せるわけかない。
野々花はひたすら謝り、何度も泰氏に｢私は泰氏くんがいないと生きていけない｣｢もう離れない｣｢愛してる｣と言わされて、やっと治まったのだ。


｢どうしたの？野々花｣
｢へ？あ、ううん｣
つい、思い出してブッと身震いしていた。
｢あ、そうだ！
ここの課長と付き合ってるってほんと？｣
｢うん、ほんとだよ｣
｢へぇー｣
｢な、何？｣
｢ううん｣
似合わないとでも言いたいのだろう。
そんなことはわかっている。

光源氏の泰氏と、地味な野々花。
けっして、お似合いカップルではない。