Your PrincessⅡ
 何も考えずに、ぼーと過ごす毎日を崩したキッカケは、養父であった。
 ガリガリに痩せ細った蘭を見て、スペンサー伯爵はついに怒った。
「何が気にくわないんだ? どうして、自分を大事にしないんだ? 君には私もお母さんもいるだろう」
 いつまでも懐かない蘭に腹を立てたのか、養父と養母は蘭と話し合おうと決心した。
 蘭は、何を言っているのだろうとショックを受けた。
 勝手に息子だと言って、お母さんと引き離したのはおまえたちだろう…。
「気にくわないから、俺は出ていく」
 精一杯、蘭が睨みつけると。
 養父は、力いっぱい蘭の頬を叩いた。
「あなた、暴力はおやめください!」
 養母が近寄って蘭を抱きしめようとして、手が止まる。
 抱きしめたいのに、また抱きしめてしまったら蘭が倒れてしまうのではないかと、養母の手はブルブルと震えだす。

「みんな、大嫌いだ」

 蘭が大声で叫ぶと、部屋から飛び出した。
 お母さんに会いたかった。
 お母さんと一緒に海外で暮らしたかった。
 いつか、迎えに来てくれるのではないかと、期待していた。
 他人と暮らすのなんて、無理だ。

 悲しみなんざ、どこへぶつければいいのか。
 全速力で蘭は屋敷を飛び出して走り続けた。
 母の元へ。
 お母さんに会いに行けば、きっとこの苦しみから解放される。
 走り続けて、
 だけど、食べていない蘭はすぐに力尽きて転んで。
 地面に倒れ込んだ。

 仰向きになって大声で泣き出した。
 こんな毎日を捨てたい。
 お母さんと暮らしたい。
「蘭様っ」
 駆け寄って来たのは、アズマだ。
「大丈夫ですか」
 息を切らしながらアズマが言う。
「大丈夫なわけないだろうが」
 蘭は、立ち上がるとアズマを思いっきり叩いた。
 両手でボコボコと叩いた。
「こんな毎日なんて、もういらない。あんな奴らは家族じゃない」
「蘭様…」
 アズマは抵抗しないで蘭に叩かれるがままだった。
 蘭は手を止めると、アズマを突き飛ばした。

「お母さんのところへ行く」
 目を真っ赤にして蘭が言う。

「…お待ちください」
「待つわけないだろうが!」
 興奮する蘭に、アズマはあるものが目に入った。

「危ない」

 アズマは蘭を突き飛ばす。
 蘭は倒れ込んで。
 蘭の上にアズマが倒れ込んだ。
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