Your PrincessⅡ
 先生に、早退して部屋の掃除をしなさいと言われ。
 渚はお昼ご飯を食べてすぐに家に帰った。
 サクラが言っていた「ひいき」という言葉が頭をグルグルと回る。
 先生が家の掃除をして、ちゃんと迎えろというのだから。
 やっぱり、ひいきされているのだろう。

 家に帰ると、既に皆が部屋中を掃除していたので。
 渚も手伝って掃除をした。

 車の音がした時、
 いよいよか…と思うと渚の心臓はバクバクと早く鳴りだした。
 意地悪な人に決まっている。
 サクラさんがあんなに怒るぐらいだ、怖いと思った。

 真っ先に外に出て迎えたのはクリスだった。
 話に聴いているのは、学校側からひいきされている少年と、
 もう一人、その少年の護衛係だという男がやってくるそうだ。

 あー嫌だなあと思いながら、渚は立って待っていた。
 ガチャリとドアが開いてクリスが入ってきて、
 その後ろから入ってきた男に渚は「えっ」と声をあげてしまった。
「海の一族?」
 思わず口に出してしまうと、入ってきた男と目が合った。
 相手の男も渚を見ると「あ」と声を漏らした。
 だが、すぐに目をそらされてしまった。

「お初にお目にかかります。こちらはスペンサー家ご子息・・・えー、この国の習わしに沿って本名は明かせませんが、呼び名は蘭様にございます」
 一人のほうに目を奪われてしまっていたが、
 もう一人の男の姿も、なかなか驚くものであった。
 背は170cm前後だろうか、ストレートのサラサラとした茶色い髪までは理解できる。
 だが、その瞳は初めてみる・・・紫色の瞳だった。
「私は、蘭様の護衛係を務めますアズマと申します」
 ペコリと護衛の男が頭を下げたので、
 シュロと渚は反射的に頭を下げた。

 蘭と呼ばれる少年は、ほぼ渚と容姿が似ていた。
 黒くてマッシュルームのような髪型に、褐色の肌。
 ここまでは、海の一族だと誰もが思うだろう。
 だが、渚と違うのは瞳の色だ。
 彼は碧い瞳をしていたのだ。

「おいっ、俺の部屋はどこだ」
 怖い顔で蘭と名乗る少年が言った。
「じゃあ、僕が案内します」
 クリスが名乗り出る。
 クリスの横で棒立ちしているサクラは顔色が悪い。
 一言も喋らないでいた。
「部屋は二階で・・・」
 とクリスが説明しようとすると、
「おい、おまえはいい。そこの小っこいの」
「えっ」
 蘭は渚を指さす。
「おまえが部屋まで案内しろ。他の奴は俺に近寄るな」
 大声で蘭が言った。
 …性格悪すぎ。
 渚は聴こえないように舌打ちした。
 ご指名頂く意味がわからないんですけどと思いながら、「こちらです」と慣れない敬語を使いながら蘭とアズマを誘導する。

 階段を上がって、蘭の部屋を案内する。
「こちらの部屋です。護衛の方は右隣の部屋でして・・・」
「おー、狭いなあ。想像より狭いなあ」
 渚の説明をろくに聴かずに蘭は部屋に入って文句を言う。

 …嫌いだコイツ。
 直観的に渚は蘭を見て思った。
 狭いと言っても、一人部屋じゃないか。
 こっちは4人部屋なんだぞっ。

 渚は蘭を睨んでいると、アズマが「渚様、ありがとうございます」と頭を下げてきた。
「せっかく私の部屋をご用意して頂いたのですが、私の部屋は不要でございます」
「え、でも・・・」
 渚が困っていると、蘭はため息をついた。
「おい、アズマ。自分の部屋を与えられたんだから。ありがたく使え」
「しかし…」
 アズマが返答に困っていると、蘭は「いいから使え」と大声で言った。
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