Your PrincessⅡ
「生きてたの? マリク」
「そっちこそ。もう、死んじゃったのかと思った」
涙が溢れてきた。
こんな奇跡あるだろうか。
ナンの温もりが全身に広がっていく。
ナンは渚の顔をのぞき込む。
「その顔は間違いなくマリクだ。瞳の色をしっかり確認出来ないのは残念」
ナンも泣いていた。
暗いので、はっきりと瞳の色を確認するのが難しいのだろう。
顔を恥ずかしいくらいに近づけてきたナンはじっと見つめてきた。
「どうして、ここにいるの?」
「昼間に、紫色の…綺麗な目をした男の人がやってきて、ある人と会話してほしいって。海の一族の人間だからって」
「そっか。アズマさんが…」
「アズマさん? マリクの知り合い?」
「うん。すっごく良い人だよ」
しばらくして、2人は並んでベッドに座り込んだ。
部屋は狭く、小さなテーブルとベッドしか置かれていない。
「村が襲撃された時、逃げたんだけど。すぐに騎士団の人に捕まって。村の人は全員、どこか大きな倉庫みたいなところに閉じ込められたの」
ナンは、これまでどのように過ごしたかを語りだした。
「ああ、もう。海の一族は皆殺しにされるんだって泣きわめく人が沢山いて…。私も、死んじゃうんだって、いっぱい泣いたの」
「……」
渚はナンの手をぎゅっと握りしめた。
約4年ぶりに会うナンは背が伸びて、大人びた顔立ちをしている。
「でも、どういうわけか殺されなかったの。年寄りから順番に呼ばれていって。次に子供がいる家族が呼ばれていって。で、私はマリクのお母さんとお姉さん達と4人で騎士団の人と面談したの」
「面談?」
「マリクのお母さんが騎士団の人と話したんだけど。こちらの言うことを聴く限り、危害は加えないって言われて…。その時、マリクは男の子だから騎士団に入団したことを教えられたの。捕まった人たちは皆、お年寄りか、女性しかいなかった」
「…ねえ。オババは?」
渚はゴクリと唾を飲み込む。
「オババは・・・自分で毒を飲んで死んだの」
「え、殺されたんじゃないの!?」
渚は大声を出す。
確か、あの時。オババは騎士団の人に襲われそうになっていた。
「騎士団の人がオババを保護しようとしたら、オババは持っていた毒物を飲み込んで死んだんだって。ちゃんと見ていた人がいたんだって」
「そんな…オババが自分で」
渚はショックで青ざめていく。
「今、考えたら、村が襲撃される前日。オババの様子がおかしかった。オババが言ってた。この先、10年、20年後はどうなるのかねえ…って。ナンの結婚式は出たかったけどねえって」
「それって」
渚は気づいた。
ナンは頷いた。
「オババは、あの日。何が起きるかを予知してたんだよ」
オババは祈祷師だ。
村で何が起こるのかを予知していた。
渚はショックで黙ったが、黙っている時間がもったいない。
「それで、ナンとお母さんたちはどうやって過ごしていたの?」
「場所はどこかは、わからないけど。一軒家を与えられたの。そこで私たちは4人で暮らしながら、服を作る仕事をしてた。騎士団の人が見張っていたから、あんまり自由に動くことは出来なかったけど。欲しいものがあれば、与えられたし。具合が悪くなったらちゃんとお医者さんに診てもらえてた」
そこは、母親の手紙の内容と一致する。
「ずっと、4人で暮らしてたの。いつまで、ここで暮らすんですか? ってマリクのお姉さんが質問したら、マリクが学校を卒業するまで辛抱してくださいって」
「あ・・・」
「でも、ずっと前に。マリクのお母さんとお姉さんたちが騎士団に連れていかれて。ずっと帰ってこなくなって」
「・・・あ」
渚は声が出なくなった。
あの時の恐怖が蘇ってきた。
自分が言う事を守らなかったから、母と姉たちは処刑されたのだ。
「僕のせいだ。僕のせいで、お母さんと姉ちゃんたち…」
ガタガタと渚は身体を震わせた。
「マリク、落ち着いて。貴方のせいじゃないよ」
「僕が言いつけを守らない悪い人間だから…だからお母さんたちは」
トントンッ。
渚が大声を出した瞬間、
ドアがノックされた。
「渚さん、そろそろ時間だよ」
ガチャリとドアが開いて、申し訳なさそうにアズマがひょっこりと顔を出す。
渚は立ち上がった。
「もう、行かなきゃ」
涙で濡れた顔をこすった。
「マリク、コレ持っていてほしい」
ナンは身に着けていたブレスレットを渚に渡す。
渚はブレスレットを受け取ると、ナンを抱きしめた。
「卒業したら、絶対に迎えに行くから。それまで待っていてほしい」
「うん。待ってる」
渚は振り返らずに部屋を出た。
無言のまま、車に乗り込む。
「アズマさん、ありがとうございます」
どういう経緯で、アズマがナンのことを知ったのかはわからないが。
こんな奇跡は二度とないと渚は思った。
「このことは、私と渚さんだけの秘密にしてほしい」
そう言うと、車が動き出した。
「そっちこそ。もう、死んじゃったのかと思った」
涙が溢れてきた。
こんな奇跡あるだろうか。
ナンの温もりが全身に広がっていく。
ナンは渚の顔をのぞき込む。
「その顔は間違いなくマリクだ。瞳の色をしっかり確認出来ないのは残念」
ナンも泣いていた。
暗いので、はっきりと瞳の色を確認するのが難しいのだろう。
顔を恥ずかしいくらいに近づけてきたナンはじっと見つめてきた。
「どうして、ここにいるの?」
「昼間に、紫色の…綺麗な目をした男の人がやってきて、ある人と会話してほしいって。海の一族の人間だからって」
「そっか。アズマさんが…」
「アズマさん? マリクの知り合い?」
「うん。すっごく良い人だよ」
しばらくして、2人は並んでベッドに座り込んだ。
部屋は狭く、小さなテーブルとベッドしか置かれていない。
「村が襲撃された時、逃げたんだけど。すぐに騎士団の人に捕まって。村の人は全員、どこか大きな倉庫みたいなところに閉じ込められたの」
ナンは、これまでどのように過ごしたかを語りだした。
「ああ、もう。海の一族は皆殺しにされるんだって泣きわめく人が沢山いて…。私も、死んじゃうんだって、いっぱい泣いたの」
「……」
渚はナンの手をぎゅっと握りしめた。
約4年ぶりに会うナンは背が伸びて、大人びた顔立ちをしている。
「でも、どういうわけか殺されなかったの。年寄りから順番に呼ばれていって。次に子供がいる家族が呼ばれていって。で、私はマリクのお母さんとお姉さん達と4人で騎士団の人と面談したの」
「面談?」
「マリクのお母さんが騎士団の人と話したんだけど。こちらの言うことを聴く限り、危害は加えないって言われて…。その時、マリクは男の子だから騎士団に入団したことを教えられたの。捕まった人たちは皆、お年寄りか、女性しかいなかった」
「…ねえ。オババは?」
渚はゴクリと唾を飲み込む。
「オババは・・・自分で毒を飲んで死んだの」
「え、殺されたんじゃないの!?」
渚は大声を出す。
確か、あの時。オババは騎士団の人に襲われそうになっていた。
「騎士団の人がオババを保護しようとしたら、オババは持っていた毒物を飲み込んで死んだんだって。ちゃんと見ていた人がいたんだって」
「そんな…オババが自分で」
渚はショックで青ざめていく。
「今、考えたら、村が襲撃される前日。オババの様子がおかしかった。オババが言ってた。この先、10年、20年後はどうなるのかねえ…って。ナンの結婚式は出たかったけどねえって」
「それって」
渚は気づいた。
ナンは頷いた。
「オババは、あの日。何が起きるかを予知してたんだよ」
オババは祈祷師だ。
村で何が起こるのかを予知していた。
渚はショックで黙ったが、黙っている時間がもったいない。
「それで、ナンとお母さんたちはどうやって過ごしていたの?」
「場所はどこかは、わからないけど。一軒家を与えられたの。そこで私たちは4人で暮らしながら、服を作る仕事をしてた。騎士団の人が見張っていたから、あんまり自由に動くことは出来なかったけど。欲しいものがあれば、与えられたし。具合が悪くなったらちゃんとお医者さんに診てもらえてた」
そこは、母親の手紙の内容と一致する。
「ずっと、4人で暮らしてたの。いつまで、ここで暮らすんですか? ってマリクのお姉さんが質問したら、マリクが学校を卒業するまで辛抱してくださいって」
「あ・・・」
「でも、ずっと前に。マリクのお母さんとお姉さんたちが騎士団に連れていかれて。ずっと帰ってこなくなって」
「・・・あ」
渚は声が出なくなった。
あの時の恐怖が蘇ってきた。
自分が言う事を守らなかったから、母と姉たちは処刑されたのだ。
「僕のせいだ。僕のせいで、お母さんと姉ちゃんたち…」
ガタガタと渚は身体を震わせた。
「マリク、落ち着いて。貴方のせいじゃないよ」
「僕が言いつけを守らない悪い人間だから…だからお母さんたちは」
トントンッ。
渚が大声を出した瞬間、
ドアがノックされた。
「渚さん、そろそろ時間だよ」
ガチャリとドアが開いて、申し訳なさそうにアズマがひょっこりと顔を出す。
渚は立ち上がった。
「もう、行かなきゃ」
涙で濡れた顔をこすった。
「マリク、コレ持っていてほしい」
ナンは身に着けていたブレスレットを渚に渡す。
渚はブレスレットを受け取ると、ナンを抱きしめた。
「卒業したら、絶対に迎えに行くから。それまで待っていてほしい」
「うん。待ってる」
渚は振り返らずに部屋を出た。
無言のまま、車に乗り込む。
「アズマさん、ありがとうございます」
どういう経緯で、アズマがナンのことを知ったのかはわからないが。
こんな奇跡は二度とないと渚は思った。
「このことは、私と渚さんだけの秘密にしてほしい」
そう言うと、車が動き出した。