愛を知らない操り人形と、嘘つきな神様
「その花束、今朝、零次くんが病院の受付のそばのごみ箱に捨てるのを看護師が見て、私に届けてくれたのよ。捨てようとしてたから、海里に渡していいかわからなかったみたい。看護師は白髪の男の子が捨ててたって言っていたから、零次くんで間違いないわ」
涙が頬を伝う。
――馬鹿野郎。
楽しかったなら、なんでいなくなるんだよ。
――なんで。何でそんな風にして人のことを救っていなくなるんだよ。
残された側はどうすればいいんだ。
どうして!!
地獄からを解放されるのと引き換えに、お前を失わなきゃなんないんだよ!?
ゆっくりと零れていた涙が、滝のようにどばどばと流れた。
地獄から解放された嬉しさと、零次を失くした悲しさが一気に込みあげてきた。
地獄から解放されたかった。
生きてるのは地獄でしかないって、本気でそう思ってきた。そう思ってたから、零次に止められても自殺をしようとした。
死を望んだ。
いや、死を望んでいるフリをしていた。本当は痛いのも苦しいのもものすごい嫌なくせに、自分を大切にしないでいた。
零次はそんな俺の想いをいとも簡単に見破って、自分を大切にしろって、父親に反抗しろって言ってくれた。
勇気の出ない俺を、弱虫で父親の操り人形みたいになっていた俺を、どうにかして人間にしようと。自分の命を粗末にしないようにしようとしてくれた。
俺はそんな零次に、命の恩人で、感謝してもしきれないくらい沢山のことを教えてくれたあいつに、何も返せていない。
それなのにお前は、何も言わずにいなくなるって言うのかよ。
なぁ、零次、俺自分を大切にするよ。
もう二度と死のうとしない。
ちゃんとご飯食べて、ちゃんと寝て、ちゃんと学校行くよ。何もかも投げやりにしないで、ちゃんと生きるよ。
命を粗末にしないで、ちゃんと生きるよ。そう約束するから、帰ってこいよ。いつもみたいに、笑って俺に声をかけてくれよ。でないと俺、笑えない。お前みたいに、いつも元気に笑えないよ。命を大事にできないよ。お前がいなきゃ。
「うっ、うぅ……」
謝るから。
命を大切にするのが遅すぎるって言うなら、謝るから。土下座でも何でもして謝るから。それでもダメだって言うなら、お前が言うこと何でもするから。
お願いだから、帰ってこいよ。
お前がいないと、ダメなんだよ。
お前がいないと、この世界は俺にとっていつまでも地獄のままなんだよ。
頼むから、帰ってきてくれよ。
俺は赤ん坊みたいに声を上げて、馬鹿みたいに泣いた。俺の声に気づいた零次が戻ってきてくれるのを願って。
「うっ、うっ、うっ、あああああ!!」
声が枯れ果てるまで、俺は泣いた。
でもそんなことをしても、零次は帰ってこなかった。
俺だけの神様は消えた。
――父親の呪縛から解放された嬉しさと、それとは比べ物にはならないほど酷い絶望を俺に味合わせて。