愛を知らない操り人形と、嘘つきな神様
ピンポーン。
俺は深呼吸をしてから、零次の部屋のインターホンを押した。
「はい」
似ているけど、違う。零次の声じゃない。
零次より少し低くて、威圧感のある声。
もしかして、零次の父親か?
「君は井島の……」
ドアを開けた男が、気の抜けた声で呟く。
男を見て、俺は固まった。
こいつ、二か月くらい前に見た闇金の男にそっくりだ。
――いや、そっくりどころじゃない。恐らく本人だ。
「なんでおじさんがここにいるんですか。ここは、零次の部屋じゃ……」
そこまで言って、ふと気づく。
俺はさっき何を考えた?
零次の親が郵便物を回収しにきたんじゃないかって、そう考えなかったか?
もし本当にそうだとしたら、この人は……。
「あの、おじさんが零次の父親ですか?」
「ああ」
は?
嘘だろ。
……なんてことだ。まさかあいつが闇金の子供だなんて。
でもそう言われてみれば、あいつが俺の虐待の動画を撮っていたことも納得がいく。
あいつが動画を撮ったのは、俺が心配だったからじゃない。
この人に命令されて、俺の動画を撮ったんだ。
俺が心配だからってことだけが理由じゃない気はしていた。でもまさかあいつがこの人の子供だなんて思いもしなかった。
「……そうか。やっぱり君があいつをたぶらかしたんだな」
「え、なんですかそれ」
「とぼけるのも大概にしろ。あいつが警察に動画を渡すように仕向けたのは、君だろう? 君がわざと、あいつを破滅に追いやった」
「え、どういうことですか?」
俺が零次を破滅に追いやった??
「ああ、可哀想に。君、本当に何も知らないんだな」
心臓をえぐられたみたいだった。
可哀想? 俺が?
「おじさんは一体何を知っているんですか」
「自分で考えたらどうだ?」
「質問に答えてください!」
声が枯れる勢いで叫んだ。
「俺は零次に君が虐待されている動画を撮らせて、それを使って借金の保証人をしている君の祖父を脅して、金を返してもらおうとしていた」