愛を知らない操り人形と、嘘つきな神様

「……海里」
 拭っても拭っても溢れる俺の涙を見ながら、零次は目尻を下げて、悲しそうに笑った。
「ありがとう、零次。本当にありがとう。助けてくれて」
 零次の瞳から堰を切ったように涙が溢れ出す。

「……俺は助けたくなかった。助けちゃダメだったんだ。助けなければ、こんなことにならずに済んだんだよ! ……本当は俺、お前と普通の友達になりたかった! 親父の命令でお前に近づくんじゃなくて! ただの同級生として遊びたかった!」
 零次が口にしたその言葉は、叶うハズもない願望だった。

 きっと零次が闇金の子供として生まれて、俺があのクソみたいな父親の子供として生まれた時点で俺達の出会い方は決まっていた。――ただの偶然じゃなくて、どちらかの親の作為で出会うことになると。
 俺達が偶然出会うなんてはっきりいって奇跡に等しい。とてもありえないことだった。

「俺もだよ。……俺も、零次とただの友達になりたかった」
 それでも俺は、零次の言葉に同意した。
 裏があるかもと思いながら、零次の手を取ったあの日の自分のことを思い出して。

 俺の瞳から涙が滝のように溢れ出す。

「うっ。俺、本当はお前と離れんの嫌だった! すげぇ嫌で、他に方法はないのかってめっちゃ思った。脅されてたのに! 地獄に戻るハメになるわかってたのに、お前とずっと一緒にいたいと想ってた……俺、お前とずっと一緒にいたい!」
 零次が俺の服の裾を縋るように掴む。
「うん。俺もずっと一緒にいたい! お前が死んだら、生きていけない!!」
 零次の背中に片腕を回して、零次の服を強く握りしめる。
 ――神様は残酷だ。
 神様はきっと、俺達の結末にハッピーエンドを残していない。

「じゃあ二人で心中でもするか? 俺の父親がここに来る前に」
「えっ」
 思わず零次の背中から手を離す。
「ハッ。嘘だよ嘘。そんなことしねぇよ。俺だけ生き残ったら、絶対に嫌だし」
 涙を拭いながら、俺を小馬鹿にするみたいに零次は笑う。
 その笑顔は痛々しくて、とても辛そうな顔だった。

「零次……俺は本当にお前と一緒にいたいよ」
 俺は零次を見て、泣きながら言った。零次はそんな俺を見て、泣きながら笑った。

「ああ、俺も。でも無理だ。俺達は一緒にいても幸せになれない。一緒にいたら、多分どちらかが死ぬか、あるいは両方死ぬハメになる。そういう運命なんだよ。俺達が一緒にいても、バッドエンドにしかならない」
 その言葉は、俺が想った言葉と殆ど同じ意味だった。

「れっ、零次」
「海里、ここまで来てくれて本当にありがとな」
「え?」
「じゃあな」
 零次は立ち上がると、海に向かって走った。
 俺は慌てて立ち上がって、零次の後を追い、海の中に入ろうとする零次の手を掴んだ。
「ふざけんな!! 何で人の自殺は止めたくせに、死のうとすんだよ!」
 声が枯れる勢いで泣き叫ぶ。
 零次が死ぬなんて、そんなの冗談じゃない!
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