愛を知らない操り人形と、嘘つきな神様
『紫色のものを見るたびに母さんが喜ぶかなと思って買って、部屋に置いてからいないのを実感して後悔にかられるなんてことにはならないハズだったんだ』
零次が言っていた言葉が頭を過った。
母親が死んだ時の零次もこんな気持ちだったのか?
零次が紫色のものを見るたびに母親を思い出していたのとように、俺も紫色のものを見るたびに零次を思い出している。
そして零次と同じように、紫色のものを見るたびに、俺は後悔にかられている。なんで零次を助けられなかったんだろうって想いに囚われている。
俺に助けを求めなかったのは、きっとあいつの意思だ。俺を巻き込みたくないっていう。
それでもあの日、俺が零次を助けられなかったのも紛れもない事実だ。
あいつはきっと、心のどこかで俺に助けを求めてたから、江ノ島の海の前で縮こまっていた。
あいつはたった独りで、俺を待っていたんだ。
だって本当に助けを求めていなかったら、俺が江ノ島に行く前に身投げをしてるハズだから。
それなのに生きていたってことは、本当は心のどこかで、俺に助けを求めていたってことになる。
あいつの心の中にはきっと、俺に助けられたいって想いと、俺を巻き込んじゃいけないっていう相反する想いがあった。それなのに自殺を選んだのは、あいつが最終的に後者の想いを優先して、俺を守ろうとしたからだ。
その想いを優先したのは、きっとあいつが俺を大切にしていたからだ。
あいつはいつも俺を大切にしてくれていた。つまり今回も、そうしただけのことだ。
でもその行為は同時に、あいつが自分を大切にしてないことの証明でもあった。
あいつは自分を大切にしていなかった。俺には散々自分を大切にしろって言ったくせに。
俺はそれが我慢ならない。どうしても納得できない。
あいつが俺を守るためだけに身投げをしたと想いたくない。そうしたことを認めたくない。いや、認められない。少なくともあいつの口から、『お前を守るために身投げをしたんだよ』って言葉を聞かない限りは。
ハッ。アホらしい。
本当はあいつが俺を守ったってことくらい、本人に聞かなくてもわかっているくせに。
それでも認めたくないのは、あいつが俺に自分を大切にしろって言ったから。だって人には自分を大切にしろって言っておいて、本人は自分を大切にしてないなんて、矛盾しているにも程があるだろう。
俺はあいつの口から聞きたい、身投げをした理由を。たとえそれが絶対に不可能なことだとしても。
『お前のために身投げをしたんだよ』って言われると、わかりきっているとしても。