愛を知らない操り人形と、嘘つきな神様
「瀬戸くん、お母さん、迎えに来てくれたわよ」
保健室の先生がそんなことを言って、ベッドの前にあるカーテンを開ける。
「え、母さん、仕事は?」
先生の隣には母さんがいた。
スーパーの仕事の帰りだったのか、母さんはエプロン姿で、俺の鞄を手に持っていた。
「早退してきたのよ! 海里が体調を崩したっていう電話が担任の先生からかかってきたから!」
「ごめん」
急いで身体を起こして、軽く頭を下げる。
「ううん、大事な息子のためだもの。気にしないで。海里、歩ける?」
「うん、もう大丈夫」
「そう。そしたら、家に帰ろっか。鞄は取ってきたから」
「うん。ありがとう」
俺は足元にあった上履きを履いて、ベッドから降りた。
「先生、ありがとうございました」
母さんが保健室の先生に頭を下げる。俺も一緒に頭を下げて、礼を言った。
「いえいえ。瀬戸くん、身体に気をつけてね。さようなら」
「はい、さようなら」
俺と母さんは先生の言葉に頷いて、保健室を出た。
「母さん、警察のところ寄れる?」
「ええ、寄れるわよ。また零次くんのこと聞きに行くの?」
「うん、まあ」
俺は警察に零次の捜索を頼んでいる。俺独りで探すのはどうしても無理があるから。
零次が虐待を受けていたことも俺は警察に話している。証拠がないから、父親はまだ逮捕されてないけれど。
零次の父親は多分、俺とは違う方法で零次の捜索にあたっている。
あいつはきっと、俺みたいに警察とかじゃなくて、闇金の仕事をしてる時に知り合った情報屋とかに捜索を頼んでいるハズだ。
俺がそう考えるのは、あいつが零次を探す理由がとんでもないものだからだ。
零次の父親は、零次を殺そうとしていた。つまり零次の父親が零次を探す理由は、生きていたら殺して遺体をどこかに埋めるためで、死んでいたら、その殺す過程がなくなるだけなんだ。
零次の親父のことを考えるだけで、俺ははらわたが煮え繰り返る。
「こんにちは」
母さんと一緒に交番の中に入って言う。
交番の中は椅子と机が一つずつ置いてあって、壁にホワイトボードがあった。
「海里くん」
「あの、何か見つかりましたか?」
俺がそう言うと、警察の人は何も言わず、顔を伏せた。
「海里くん、何度も言うけれど、手がかりが見つかったら、一番に電話しますから」
「……はい」
警察の言葉に頷いて、俺は母さんと一緒に交番を出た。
俺はあいつが身投げをしてから毎日のように警察のとこに行って手がかりが見つかったか聞いている。そんなことをしても、時間の無駄かもしれないのに。
「海里、お昼まだでしょう? どこかに食べに行こうか?」
沈んだ顔で地面を見つめていた俺に、母さんが上機嫌で声をかける。
「え、お弁当は?」
「そんなの後で食べるんでもいいから! ね?」
「……うん」
俺が頷くと、母さんはとても嬉しそうに笑った。