愛を知らない操り人形と、嘘つきな神様
「海里、何食べたい?」
『海里どれ食う?』
 ふと、零次とたこ焼き屋に行った時のことが頭をよぎった。
「……たこ焼き」
「そしたら、駅ビルにでも行こっか」
 声に出して俺は頷いた。
 駅ビルのフードコートには、たこ焼き屋の他にラーメン屋やうどん屋など、様々な店があった。
「あ」
 たこ焼き屋の前に、男女のカップルがいた。男の方は髪が銀色で、女の方は金髪だ。
「清花、どれ食べる?」
「んー、ねぎたま!」
「オッケ、買ってくる」
 そう言うと、銀髪の男はたこ焼きを買いに行った。
 零次もセフレとあんな風に話していたんだろうか。
「……ごめん、母さん。やっぱ先帰ってて」
「えっ、海里?」
 母さんの声を無視して、俺は早足でエレベーターのそばに行った。
 嗚呼、やっぱりダメだ。
 泣かないようにしようって、考えないようにしようと思ってもいやでも考えてしまう。
 なんでいないんだよ。
 お前がいなきゃ、つまんねえよ。男同士で付き合ってたわけでもないんだし、こんなに執着するのは馬鹿みたいなのかもしれない。そう思っても執着せずにはいられなかった。

 会いたいと思わずにはいられなかった。

 だってあんなことされたら、あんなに優しくされたら、いやでも忘れられない。
 だってあいつがいなかったら、俺は何も知らなかった。
 スイパラのことも、ピザにクワトロってのがあることも、タピオカがどういうものなのかも全然知らないハズだったんだ。

 あいつは俺に青春を教えてくれた。友達の大切さを教えてくれた。父親の人形になろうとしていた俺に、人でいいよって言ってくれた。自分を大切にすることがどれだけ大事なのか教えてくれた。

 ズボンのポケットからスマフォを取り出して、零次に電話をかける。

『この電話番号は、現在使われておりません』
 あまりに無慈悲な機械音が、スマフォから流れた。
「会いてえよ、零次」
 本人に聞こえるわけがないと、口に出しても意味がないとわかっていても言わずにはいられなかった。

 涙が頬を伝う。

 俺は泣いてるのが人にバレないよう、フードで顔を隠してエレベーターに乗って一階に降りて、駅ビルを出た。

『夜までには帰ってきてね。ご飯作って待ってるから』
 手に持っていたスマフォから不意に通知音がして、なんだろうと思ったら、母さんからラインが来ていた。

 俺が落ち込んでるからって気を遣ってご飯に誘ってくれるだけでなく、こんなラインもくれるなんて、本当にいい母親だよな。
 まあ、母さんが俺に優しくするのは、父親の虐待から俺を守れなかったのが後ろめたいからだと思うけど。

 ……これからどうしよう。

 お昼くらい一緒に食べればよかった。食欲湧いてないし、たこ焼きなんて吐く気しかしないけど。
 ハッ。それじゃあ食べる意味がないだろうが。

 誰かといても一人でいても零次のことを考えてしまうなら、一人でいた方が好きに泣けるし、人に気も遣わないで済むからマシだと思ったけど、行く宛なんてないし、本当にどうしたらいいんだろう。

 いや、一つだけあるかもしれない。
 俺はそこで、零次のことで、調べたいことがある。
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