愛を知らない操り人形と、嘘つきな神様
零次の父親が働いている闇金会社の前で、俺は深呼吸をした。
闇金の会社は、俺の高校がある町のはずれにあった。 家出をする前に撮った名刺の写真に住所が書いてあったから、俺はここまで来れた。
会社はマンションの三階の突き当たりにあって、会社名が書かれた表札もなかったから、外からはただの誰かの部屋にしか見えなかった。まあ闇金の会社だから、あえてそうしているのだろうけど。
「……お前」
不意に背後から声をかけられて振り返ってみると、スーツ姿の零次の父親がいた。
「……お久しぶりです」
「今更なんだ。命の恩人に礼でも言いたくなったか」
「あんたを命の恩人だと思ったことは、一度もありません」
零次が身投げした日、海で溺れてる俺を助けたのは、こいつだった。
俺はこいつに命を救われた。こいつがいなければ俺は死んでいた、間違いなく。
それでも俺は親友を自殺に追いやった張本人を、命の恩人だとは思えない。
「じゃあ一体なんのようだ」
「車を見せてください」
「なんでお前に俺の車を見せる必要があるんだよ」
「零次が車の中に監禁されてたって言ってたからです」
あいつが身投げをしたのは、この父親から、俺を守るためだった。
それはつまり、零次は親友が親に殺されるかもしれないと考えていたということになる。俺は知りたい。零次はどうして、そんなことを考えるくらい、父親に恐怖心を抱いていたのか。
多分、零次がそうなったのは、車に監禁をされて、金の催促の現場を見たことだけが原因じゃない。もっと大きな要因があるハズなんだ。
何をしてても零次のことを考えてしまうなら、もういっそ零次のことをとことん調べようと思った。そうしたら、分かるハズだ、どうして零次が、赤の他人の俺にあんなに優しくしたのか。
本当は俺を助けたいなんて思ってはいけない環境にいたのに、俺を助けてくれたあいつの気持ちが。
あいつがどうして、人には散々自分を大切にしろって言っておきながら、自分を大切にしなかったのか。
あいつの気持ちを知るためなら、俺はなんだってしてみせる。だってあいつは、俺の親友なんだから。
「ああ、そのことか。あいにくだが、それは却下だ。ナンバーを覚えられでもしたら困るからな。代わりに、いいもん見せてやるよ」
「なんですか、いいもんって」
思わず眉間に皺を寄せる。
一体なんなんだ。
「お前が見たがってるもんだよ。さっさと着いてこい」