愛を知らない操り人形と、嘘つきな神様
「美和、それは言わない約束でしょ?」
「私だって好きで言ってるんじゃないわよ! でもこんなに見つからなかったら、言いたくもなるじゃない!」
美和が浜辺の砂を蹴って、やりきれない様子で言う。
「海里くん、私もそろそろやめた方がいいと思う」
奈緒が控えめな声で言う。
「……お前らが探さないっていうなら、俺が独りで探す」
「いい加減現実を見なさいよ! あいつは死んだの!!」
美和が俺の肩を掴んで、必死に訴える。
「わかってるよそんなのっ!! でも俺が探さなかったら、一体誰があいつを弔うんだよ!」
美和の手を振り解いて、俺は叫んだ。
あいつが生きていないことくらい俺だってわかっている。
警察の協力もあったのに、二年間寝る間も惜しんで探しても、てんで見つからなかった。その上、脚があんなに不自然な状態で見つかったんだ。それなのにあいつが生きていたら、そんなの奇跡としか言いようがない。
それでも、諦める気にはどうしてもなれなかった。
だって俺が探すのをやめたら、一体誰があいつを埋葬するんだよ。
あいつは不倫で生まれた子供で、あいつの父親は子供に『生きる価値がない』なんていうようなクズだ。それにあいつの母親はもう帰らぬ人となっている。
それなのに俺が埋葬をしなかったら、一体誰があいつを埋めるんだ。
俺以外に、一体誰があいつを成仏させられるんだよ。
こんなことを思っている時点で、俺はあいつが生きていると思っていない。それでも、あいつが死んでいると心のどこかで想っていながらも探すのは、ただの意地だ。
零次の父親は二年で探すのをやめたけれど、もし万が一その父親が偶然、右足をなくした零次を見つけたら一体どうなる?
見つけた時の零次の状態は二つに絞られる。生きているか、死んでいるか。きっと後者の確率の方がよっぽど高いけれど。
たぶん生きていたら、父親は零次をものすごい酷い方法で殺すだろう。そして、零次の母親を殺した時と同じように死体をどこかに埋めに行くんだ。
死んでいたら、殺すという過程がなくなって、死体を埋めるだけになる。
零次の父親は多分、火葬はしない。
あんな父親が零次を弔ってくれるわけがない。それなら絶対、俺が探さないと。あいつが零次と出くわすのだけは、絶対に阻止しないと。
それに俺は、もう一度だけでいいから、あいつに会いたい。会って話がしたい。文句を言ってやりたい、俺のため身投げなんかしてんじゃねえって。なんで自分を大切にしなかったって。俺を通して昔の自分を救うだけで満足してんじゃねえって。
……あいつを成仏させることより、その想いの方が強いかもしれない。俺は結局のところ、ただ、どんな形でもいいから、あいつに会いたいだけなんだ。