愛を知らない操り人形と、嘘つきな神様
「ねえ海里、わかってる? 下手するともう……」
「いうな! ……頼むから、その先だけは言わないでくれ」
下手するともう、骨になっているかもしれない。
その言葉だけは、どうしても聞きたくなかった。
嗚呼。 生きているわけないって想っているくせに、あいつの骨を見るのはどうしても嫌なんて、矛盾しているにもほどがある。
何がどんな形でもあいつに会いたいだよ。全然そんなことないじゃないか。
本当は弔うためなんてのはただの体のいい言い訳にすぎない。
俺はそういうことを言って、あたかもあいつの死を受け入れられてるようなフリをして、酷い現実から目を背けてるだけだ。
ハッ。
我ながら情けないな。親友にこんなに執着してるなんて。
「ねえ、わかってる? 辛くなるのは、海里くんなんだよ? 海里くん、私達まだ、十八歳なんだよ? それなのに海里くんはずっと零次くんのことばっかりで。本当にそれでいいの? このままじゃ海里くんの大学生活、一人も友達できないで終わっちゃうよ?」
奈緒が涙を流しながら言う。
否定をする気にすらなかった。
だって実際、友達を作る気なんかこれっぽっちもないし。
別に友達が欲しくないわけじゃない。むしろどちらかというと友達は欲しい。ただ俺は友達を作ったら、零次のことを忘れてしまうんじゃないかって。零次のことを考えられなくなってしまう日がいつかくるんじゃないかと想っているだけだ。そんなことになるなら友達なんていらない。欲しくない。あいつを、俺だけの親友を忘れてしまう日が来るくらいなら、俺は一生独りでいい。
「……なんとか言いなさいよ」
黙ってる俺を、美和がガンを飛ばすみたいに睨みつける。
「俺は友達なんかいらねえ、作らねえ。友達を作ってあいつのことを考えなくなってしまうくらいなら、俺は一生独りでいい!」
奈緒を睨んで、俺は叫んだ。
「ばっかじゃないの!……後悔しても、知らないから。行こ、美和」
涙ながらに奈緒は叫んで、美和の腕を引いて歩き出す。
俺はだんだん遠くなっていく二人を、追いもしなかった。
本当に馬鹿なんじゃないか。友達なんてあの二人しかいないのに。
裾を、服が千切れそうなくらい強く握りしめる。
あの二人が俺を想って怒って涙を流してることくらい、言われなくてもわかった。わかっている、――俺は間違っている。
それでもあいつを忘れるのだけは、あいつのことを考えなくなるのだけは、どうしても嫌なんだ。
だって俺はまだ聞けてない。
まだ聞けてないんだよ、あいつが身投げをした理由を。それなのにあいつを探すのをやめるなんて嫌だ。