愛を知らない操り人形と、嘘つきな神様
今投げ出すなんて、絶対に嫌だ。
だって俺は死ぬハズだった。
本当ならこんなに生かされないで、とっくに殺されるハズだったんだ。
零次はそんな俺を、生かしてくれた。
理不尽な世界に反抗する気もなくして、自分の人生が崩れていく様をただ眺めていた俺を、必死で助けてくれた。自分のことを犠牲にしてまで。
俺は知りたい、あいつがどうしてそこまで俺を大切にしてくれたのかを。
あいつがどうして、そんなにも自分を大切にしなかったのかを。
父親に俺の動画を撮れといわれた時、あるいは監禁をされていた時、あいつが一体何を思っていたのかを。
俺はあいつのことで知りたいことが山のようにある。
それなのにあいつのことを忘れてのうのうと生きることなんてできない。いや、そんなこと絶対にしたくない。そんなことをするくらいなら、俺は一生独りで生きてやる。
「ハッ」
独りで生きられるわけねえだろうが。まだバイトをしたこともないのに。
涙が頬を伝う。
「れ、れいじい……」
どうしたって、なんだよ海里って声をかけて欲しかった。
なんでいないんだよ。本当に、どうして。
「あの、大丈夫ですか?」
背後からかけられた声に驚いて振り返ってみると、目の前に、金髪の男の人がいた。
その人は二重の垂れ下がった瞳と、形のいい少しだけ丸みを帯びた眉と、鼻筋がきちんと通った鼻が綺麗で、見るからに美形だった。
「これ、よかったら使ってください」
男の人がポケットからハンカチを取りだして、俺に手渡す。
「すみません。ありがとうございます」
受けとったハンカチを目に当てて、涙を拭う。
「いえいえ。お友達と喧嘩でもしたんですか?」
俺が独りだったからか、男の人はそんなことを言って首を傾げた。
「……はい。まあ、俺が悪いんですけど」
「海里さんがいつまでも彼を忘れられないのが、ですか?」
思わず眉間に皺を寄せて、男の人を見る。
どうしてそのことを。
「聞いてたんですか」
「すみません、盗み聞きするつもりはなかったんですけど、あまりにも声が大きかったので」
「……そうですか」
まああんなに騒いでたら、嫌でも聞こえるよな。
「……幸せですね、海里さんの想い人は」
「え?」
「そんなにも、海里さんに考えてもらえて」
そんな風に考えたこともなかった。