愛を知らない操り人形と、嘘つきな神様
でもその保険金をもらうには、ある決まりがあった。それは、俺が自殺したり、親に殺されたりした場合には保険金をもらうことができなくて、俺が他殺か事故か、あるいは病気とかで死なないと保険金をもらうことができないというものだった。
保険金がどうしても欲しかった父さんは、そこでえげつないくらいの虐待を何度もして、俺を一切抵抗できなくなるまで弱らせてから、死因を事故に偽装して殺そうと考えた。抵抗する力が残っていたら、死ぬ前に逃げてしまう可能性があるから。
それからだ。虐待のやり方が目に見えて悪化して、飯を平気で三食とも抜かれたり、家の物置やガレージに何時間も閉じ込められたりするようになったのは。
俺は足元に置いていた鞄の中からハンカチを取り出すと、それで顔を拭いた。
今は十月の初旬だけれど、今日は夏みたいに暑くて、最高気温は二十七度だ。
俺の家のガレージはエアコンも窓もないから、今日みたいな日はドアを開けて喚起をしないと、すぐにうだるような暑さになる。
それなのに、俺は閉じ込められた。
本当に最悪だ。こんなの熱中症になれと言われているようなもんだ。
ズボンのポケットに入れていたスマフォの電源を付けて、ホーム画面に映っている俺と母さんのツーショット写真を見る。
俺が小学五年生くらいの時に撮った写真だ。
俺が虐待をされる前の写真。
母さんも俺も目を細くして、とても楽しそうに笑っている。
母さん、助けに来てくれないかなぁ。
「……来るわけないか」
小さな声で言って、自虐するみたいに笑う。
母さんは、俺が虐待を受けている時は必ず仕事に行っている。
俺の虐待を見て見ぬふりして、朝の八時から夜の八時までスーパーで働いて、夜中の二十四時からは水商売の仕事をして働いている。
一年半前から俺を苦しめるのに熱中していて、金を稼ぎもしないニートの父さんの代わりに働いている。
そうしないと、生活が苦しくなってしまうから。
ニートの父さんと学生の俺を養うのは、虐待を見て見ぬふりをしてでも働きに行かないと無理だから。そんなにたくさん働くくらいなら父さんと離婚をして俺と二人で暮らすのを選んでくれればいいのに、母さんは絶対にそうしてくれない。