愛を知らない操り人形と、嘘つきな神様
父さんが俺に嘘をついてる可能性を考えてなかったわけではない。なくはないと思っていた。でもまさか本当にそうだなんて思ってもいなかった。
……いや、考えたくなかったんだ。
その可能性を考えたくなかった。
だってもしそうだったら、父さんは俺だけを殺したがっているということになってしまうから。
そんな風に考えたくなかった。
俺だけが嫌われてて、命を狙われているなんて考えたくもなかった。だってそんなの余りに辛すぎる。
そんな展開、絶対に嫌だと思っていた。
それなのになんで。何でこんな結末なんだ。
なんで、死ぬ前にこんな事実を突きつけられなきゃなんないんだよ……?
ああ、そうか。
多分最初から、父さんは母さんを苦しめるつもりも、殺すつもりもなかったんだ。離婚を切り出されても、母さんを生かすつもりだったんだ。
そう思っていたから、俺に『死んでくれ、海里。お前が死んでくれれば、その保険金で俺と母さんはもっと裕福に暮らせる。もっとちゃんとやっていけるようになるんだよ。だから海里、俺のために死んでくれ。それがおまえができる一番の親孝行だよ』って言ったんだ。
最初から、父さんは俺だけを金に換えようとしていたんだ。つまり俺が逃げても、母さんは酷い目に遭わない。父さんが逃げた俺を必死で探すようになるだけなんだ。
よく考えたら、分かることだった。
そもそも何で俺ばかり殺されそうになって、母さんは殺されそうにならないのか。金のためにどちらかを殺したいだけなら、そんな差別起こるわけがなかった。
俺はその事実に全く気付いてなかったんだ。
「海里。目が覚めたのか」
母さんの部屋のドアが開いて、中から父さんが出てきた。
こいつは一年半もの間、俺を騙してたのか。
俺は父さんを睨みつけた。
「そんな目して、殺されたいのか?」
俺と父さんが話しているのに気づいた母さんが、慌てた様子で部屋から出てくる。
父さんは俺と母さんを一瞥すると、自分の部屋に戻った。
多分母さんが好きだからそうしたんだろうな。
「海里? もしかして、聞いてたの?」
「うん。母さんは俺より金が大事だったんだな」
「ち、違うのよ。私はただ、あの人が怖かっただけで」
「あいつが金をせびってくるのが怖かったんだろっ!?」
俺の怒号が廊下に響き渡った。